P62~63
【近代社会の経済的運動法則】
『資本論』は、1867年7月25日付の第1巻初版序文のなかでマルクス自身がのべているように、「資本主義的生産様式およびこれに照応する生産関係ならぶに交易関係」を研究することによって、「近代社会の経済的運動法則を明らかにすること」を最終の目的にしている。
ここでマルクスが「近代社会」といっているのは、かれが他の場所で「近代ブルジョア社会」とか「資本主義社会」といっているのと同じ意味であることはいうまでもないが、「近代社会」の重要な特質は、資本がその主体をなしているという点にある。
もとより、「近代社会」も、他のタイプの社会と同じように、終極的には、人間によって構成され、人間によって動かされているものにほかならない。しかし、「近代社会」、とくにその経済生活においては、必ずしも人間が主人公であり、その意味で主体であるというわけではない。
経済生活をささえる決定的条件である生産をいとなんでいるものが人間であることはいうまでもないにせよ、「近代社会」においては、人間が直接に生産を行なうのではなく、資本という社会関係をつうじて生産を行なうのである。
そして人間は、資本にたいしてどのような関係にたつかにおうじて、資本家・地主・労働者といったさまざまな社会的・階級的刻印をおされ、それぞれ資本の運動のために必要な役割を果たしている。
だから、「近代社会」では、運動の主体をなしているのは資本であり、人間は資本の従属物になっている。「近代社会の運動法則を明らかにすること」を最終目的にした著作に、マルクスが『資本論』という表題を与えたのは、そのためにほかならない。
引用:
マルクス主義の経済思想
有斐閣新書 1977年
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