P73~74
ほんらい、科学の正しい方法というのは、対象を概念的に再構成して、それを人びとに理解させる方法のことであり、叙述の方法である。
マルクスは、この叙述の仕方と研究の仕方とを区別し、叙述には経済的素材の詳細な研究が前提されねばならないことを強調する。つまり、経済学のような経験科学の場合は、概念のひとり歩きとか自己展開といったことはありえないのであって、どのように先験的にみえる叙述においても、その展開の動力となっているのは、事実の研究なのである。
さらに、注意すべきことは、マルクスが叙述のさいの対象の概念的再構成と対象それじたいの現実的構成とをはっきり区別していることである。
この区別は、叙述=論理の歩みと現実=歴史の歩みとの区別といってもよい。
マルクスが『資本論』で直接に追求しているのは、「近代社会」の叙述=論理の歩みなのであって、これを「近代社会」の形成史そのものと同一視することはできないのである。
引用:
マルクス主義の経済思想
有斐閣新書 1977年
Ⅱ『資本論』の基本性格と主要な内容
2 『資本論』の方法
執筆者・・・鶴田満彦
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