忍者ブログ

[PR]

2025-04-19 05:58

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

価値形態論の課題(見田石介著作集 第4巻 解説)

2009-11-25 12:17

P299~301
 
 弁証法的方法がどのようなものかを『資本論』の内容に即して解明することは第四章「弁証法的方法の本質」でなされる。
 
その第一節では貨幣の発生的展開の方法が、第二節以下では資本の諸モメントの資本概念からの発生的展開の方法が考察される。
 
その際に見田氏は、弁証法的方法は単純な分析・綜合の方法とは区別されるとしながらも、「それ〔=弁証法的方法〕の要素をなすものは、科学の唯一の用具である分析、綜合以外の何ものでもない」(151ページ)こと、「弁証法的方法において実際に働いていたものが、はじめから終わりまで分析であり、弁証法的方法の威力を形成するものが分析の威力にほかならないこと」(161ページ)を強調している。
 
 さて、価値概念から貨幣形態への展開については、氏は、ここでの課題が論理と歴史との一致を証明することなどではないと述べている。しばしばみられる大方の「価値形態論」は、この個所こそ弁証法だなどといいながら、論理と歴史の一致を証明しようとしたり、後にふれる、相対的価値形態と等価形態との「矛盾」を云々するというような見当はずれの努力をしているのである。
 
 見田氏は、価値形態論の展開は、貨幣が商品であることの認識のうえに、商品がいかにして貨幣であるかを明らかにすることだと述べている。またその弁証法的意義について次のように述べている。
 
 「これは、わたしが〔久留間鮫造氏の〕『価値形態論と交換価値論』において教えられ他多くのことのなかでももっとも教えられたものの一つでありますし、かつ、たんに貨幣にかんしてだけでなく、この主語と客語との顚倒、主語と客語との同一性は弁証法の神髄を語るものであります・・・」(278ページ)。
 
 貨幣が商品であることを分析によって明らかにするだけではなく、商品が貨幣であること、すなわち商品のなかに貨幣の萌芽をみ、その発展過程を展開していること、これが価値形態論でなされていることである。
 
貨幣が商品であるという場合には、一方のなかに他者ではない、いわばはみ出す部分がある。それに対して、商品が貨幣であるという場合には、貨幣は商品の必然的産物であるから、商品と貨幣という主語と客語とはぴったり一致する。「これではじめて貨幣が完全にとらえられるのである」(186ページ)。
 
 だから、価値形態は価値概念そのもの=価値の本性からの展開であって、たんに単純な価値形態からの発生史ではない。すなわち「価値形態の分析においては、これをそれだけとして分析するのでなく、価値の本性の必然的な現われとして、価値概念からみちびき出すことが、マルクスにとってもっとも大切な、その核心をなす仕事であって、『資本論』の初版では、これを『決定的に重要なこと』だとしている」(154ページ)のである。
 
 価値概念から価値形態への展開は、したがって、第一形態の分析でなされなければならない。マルクスが第一形態の分析に価値形態の展開の大半をささげたのもその故である。
 
 このような考えに立って、氏は、簡単な価値形態の二つの極、相対的価値形態と等価形態のあいだに「矛盾」をみる見解を批判している。ここで氏は、二つの極の関係が何ら矛盾ではないとして、矛盾(現実的対立)と抽象的対立との区別の重要さを強調する。
 
 矛盾とは「『全体』をめぐってそれを肯定するものと否定するものとの対立」(167-8ページ)、「現にある対立の統一を肯定するものと否定するものとの対立」(168ページ)、「一定の形態の両過程の統一をめぐって、それを維持する力と破壊する力との対立」(169ページ)である。
 
それは上と下、東と西というような抽象的対立とははっきり区別されなければならない。矛盾関係にあるブルジョアジーとプロレタリアートのたたかいからは社会主義社会という新しいものが生まれる。だが、相対的価値形態と等価形態との対立は価値形態という事態そのものを何ら変化させない。その対立が古いものを消滅させ新しいものを生みだす場合にこれを矛盾というのである(本著作集第一巻「対立と矛盾」参照)
 
 両者の関係が矛盾だということは、価値形態論のもう一つの意義をも失わせてしまう。マルクスはここで貨幣が商品生産社会の必然的産物であり、両者が不可分の関係にあることを証明した。当時、商品生産はそのままにして貨幣の廃止を主張するプルードンらの誤りを批判する必要があったからである。貨幣が商品と切り離しえない共存関係にあること、そのことをもっとも簡単な価値形態から貨幣への展開においてしめすことがもう一つの課題であった。
 
 以上のことから、簡単な価値形態の把握はつぎの二つのことをあわせて把握したものである。
 
一つは、それを価値概念の必然的な現象形態としてつかむこと、もう一つは、その現象形態の内部の二つの極の間の必然的関係をつかむことである。すなわち「二つの側面を事物の必然的な現象形態として証明することと、それらの二つの間の側面の相互前提関係を証明すること、これが一つの事物の構造を科学的にとらえるもっとも基礎的な仕方である」(177ページ)。
 
 『資本論』の全体の弁証法も、そのもっとも抽象的な形では、資本概念からその必然的な形態を捉え、その形態の内部の二側面、可変資本と不変資本、絶対的剰余価値の生産と相対的剰余価値の生産、資本による剰余価値の生産と剰余価値による資本の生産等々、の相互関係をとらえてゆくものである。
 
 
 
 
見田石介著作集 第4巻
解説(平野喜一郎)
大月書店

PR
  • No Name Ninja