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かくして資本主義的商品生産は、売ることをすなわち価値を求めての生産になるのである。ここで再度問題を整理しておこう。
資本主義社会が商品生産社会だという規定は、次の二つの意味をもっている。
一つは、商品生産が一般化されて、社会の隅々まで商品交換がいきわたり、労働生産物は商品形態をとり、価値法則が全面的に作用するようになるということである。
二つは、生産が売るということを目的に、価値を求めた生産になるということである。
しかし、このような一般的な発展した商品生産に達するのには、もう一つの前提が必要である。
商品生産の全面化は、無媒介的に成立するのではない。商品生産―交換すなわち商品流通の量的拡大が、商品生産の一般化をただちに導くのではない。
資本主義にとって商品流通の発達が歴史的前提ではあっても、それはただちに資本主義的商品生産に直結するのではない。独自の生産様式の発生が要件である。そこをマルクスは次のように考えた。
「資本主義時代を特徴づけるものは、労働力が労働者自身にとって彼のもっている商品という形態をとっており、したがって彼の労働が賃労働という形態をとっているということである。他方、この瞬間からはじめて労働生産物の商品形態が一般化されるのである。」
「労働力が労働者自身によって商品として自由に売られるようになれば、不可避的になる。しかしまた、そのときからはじめて商品生産は一般化されるのであって、それが典型的な生産形態になるのである。」
「資本主義的生産は生産の一般的形態としての商品生産なのであるが、しかし、そうであるのは、そしてまたその発展につれてますますそうなるのは、ただ、ここでは労働がそれ自身商品として現われるからであり、労働者が労働を、すなわち自分の労働力の機能を売り、しかもわれわれが仮定するところでは、その再生産費によって規定される価値で売るからである。労働が賃労働になるその範囲で、生産者は産業資本家になる。それゆえ、資本主義的生産は(したがって商品生産も)、農村の直接生産者もまた賃金労働者になったときにはじめてその十分な広さで現われるのである。」
「資本主義的生産の根本条件―賃金労働者の存在―を生みだすその同じ事情は、すべての商品生産の資本主義的商品生産への移行を促進する。」
商品生産の一般化が展開する前提となる独自の生産様式とは、ここに引用したように、労働力も商品化されているような商品生産段階のことである。
労働力が商品化される段階に達して、はじめて商品生産は高度に発達した、全面的な商品生産すなわち資本主義的商品生産に転化するのである。この労働力の商品化が前提になるということは二つの意味をもっている。
第一に、社会の隅々まで商品流通がいきわたるためには、封建社会の中核である自給自足的な農村が分解されていなければならない。商品生産が農村にまで浸透できるようになるには、自給自足的な農民を分解して、商品生産者に変えなければならないからである。
第二は後述することになるが、資本主義的商品生産は価値を求めて、剰余価値生産をおこなうのであるが、それは労働力商品の存在を前提とする。
引用:
資本主義発展の基本理論 金子貞吉著
青木書店 1980年
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